形態で変わる運営スキル:オープン vs クローズド運営に適した人材戦略と育成アプローチ
コミュニティ運営において、どのような形態(オープンまたはクローズド)を選択するかは、参加者との関係性、情報の扱い、そしてコミュニティの目的達成に深く関わります。そして、その運営形態に応じて、運営チームに求められるスキルセットや適した人材戦略も大きく異なってまいります。
既存コミュニティのエンゲージメント低下などの課題に直面し、運営体制や必要なスキルを見直されているコミュニティマネージャーの皆様にとって、オープン型とクローズド型のそれぞれで求められる専門性や人材育成のアプローチを理解することは、より効果的な運営体制を構築するための重要な一歩となるでしょう。
本記事では、オープンコミュニティとクローズドコミュニティ、それぞれの運営に特有のスキル要件と、それに合わせた人材育成・採用戦略について解説いたします。
オープンコミュニティ運営に求められるスキルと人材戦略
オープンコミュニティは、誰でも参加可能で情報が広く共有される傾向にあります。そのため、運営側には多様な背景を持つ多数の参加者を管理し、活発ながらも秩序のあるコミュニケーションを維持するための、多岐にわたるスキルが求められます。
求められる主なスキルセット
- 広報・マーケティングスキル: 新規参加者の獲得、コミュニティの認知度向上、イベント告知など、外部への情報発信能力が重要です。多くの潜在参加者へリーチし、魅力を伝えるスキルが求められます。
- 高度なコミュニケーション・ファシリテーションスキル: 多様な意見が交錯する場で、建設的な議論を促し、異なる視点を持つ参加者間の橋渡しを行う能力が必要です。感情的な対立が発生した場合に冷静に対処し、解決へと導くスキルも重要となります。
- リスク管理・危機対応スキル: 誹謗中傷、スパム、荒らし行為など、様々なリスクが発生しやすい環境です。これらのリスクを未然に防ぐためのルール設計や監視体制の構築、そして問題発生時の迅速かつ適切な対応スキルが不可欠です。炎上対策やプライバシー侵害への対応も含まれます。
- データ分析スキル: 参加者の属性、活動状況、コンテンツの閲覧傾向など、大量のデータを分析し、運営改善や施策立案に活かす能力が求められます。Google Analyticsやコミュニティプラットフォームの分析機能などを活用するスキルが含まれます。
- テクノロジー活用スキル: コミュニティプラットフォームの選定、設定、運用に関する知識に加え、外部ツール(Slack, Discord, Zoomなど)との連携、自動化ツールの導入など、テクノロジーを効果的に活用して運営効率を高めるスキルが必要です。
人材戦略と育成アプローチ
オープンコミュニティの運営チームは、これらの多様なスキルを網羅する必要があります。一人の万能な人材に依存するのではなく、それぞれのスキルに長けたメンバーで構成されるチーム体制が有効です。
- 多様なスキルを持つチーム編成: マーケティング担当、モデレーター、データアナリスト、テック担当など、役割に応じた専門性を持つメンバーを集めます。
- スキルマップの作成と補完: チーム全体のスキルマップを作成し、不足している領域を明確にします。その上で、既存メンバーへの研修(例: リスク管理研修、データ分析ツール研修)や、必要なスキルを持つ人材の新規採用、あるいは外部専門家との連携を検討します。
- 標準化とマニュアル整備: 多数の参加者に対応するため、FAQ、トラブル対応マニュアル、モデレーションガイドラインなどを整備し、誰でも一定レベルの運営ができるように標準化を進めます。
- 心理的安全性への配慮: 広範な活動の中で発生する可能性のある困難な状況に対処できるよう、運営メンバー間の情報共有を密にし、互いにサポートし合える心理的安全性の高いチーム環境を構築します。
クローズドコミュニティ運営に求められるスキルと人材戦略
クローズドコミュニティは、特定の目的や条件を満たした限られたメンバーで構成され、深い交流や機密性の高い情報共有が行われる場です。運営側には、メンバー一人ひとりに寄り添い、質の高い体験を提供するための、よりパーソナルで専門的なスキルが求められます。
求められる主なスキルセット
- 高度な傾聴・共感スキル: メンバー間の信頼関係構築が最重要です。メンバーの抱える課題やニーズを深く理解し、共感する姿勢が求められます。一人ひとりの発言に丁寧に耳を傾け、個別に対応する能力が重要となります。
- 専門知識・業界知見: 特定のテーマに特化したコミュニティの場合、運営メンバー自身がその分野に関する深い知識や経験を持っていることが、メンバーからの信頼を得る上で不可欠です。質の高い情報提供や質問への適切な応答が可能になります。
- 個別対応・コンサルティングスキル: メンバーの個別の課題解決を支援したり、成長をサポートしたりするコンサルティング的なアプローチが求められる場合があります。メンターリングやコーチングのスキルも有効です。
- 情報セキュリティ・プライバシー保護スキル: 機密性の高い情報が共有される可能性があるため、情報の取り扱いに関する高度なセキュリティ意識と、プライバシー保護に関する知識が必須です。プラットフォームのセキュリティ設定やアクセス管理、メンバー間の情報共有ルール作りに関わります。
- イベント企画・実行スキル: メンバー間の関係性を深め、エンゲージメントを維持するため、オンライン・オフラインを問わず、質の高いイベントを企画・実行する能力が重要です。懇親会、勉強会、ワークショップなど、目的に応じた企画力が求められます。
- 収益化・事業連携スキル: 会員制の場合など、コミュニティをビジネスとして成立させるための収益モデル設計や、コミュニティ活動を事業成果に繋げるための企画力や実行力が求められます。
人材戦略と育成アプローチ
クローズドコミュニティの運営チームは、少数精鋭で、各メンバーが深い専門性と高いホスピタリティを兼ね備えていることが理想的です。
- 専門性とホスピタリティを重視した採用: 特定分野の専門知識に加え、人に寄り添うことができ、メンバーの成功を心から願えるような人物を採用基準とします。
- 個別スキルの深化と共有: メンバーそれぞれが持つ専門知識をさらに深める機会を提供しつつ、チーム内でナレッジシェアを行うことで、全体の対応力を高めます。
- きめ細やかなフォロー体制の構築: メンバー一人ひとりに対する手厚いサポートが求められるため、担当制を導入したり、コミュニケーションツールを活用して迅速に個別対応できる体制を構築します。
- 役割分担と権限移譲: 運営負荷を分散するため、モデレーションやイベント企画などの役割を明確に分担し、信頼できるメンバーには一定の権限を移譲することも検討します。
運営形態の見直しにおける人材戦略の視点
既存コミュニティの運営形態を見直す際、特にオープン化やクローズド化、あるいはハイブリッド化を検討する際には、現在の運営チームのスキルセットと、移行後のコミュニティで求められるスキルセットとの間に発生するギャップを正確に把握することが重要です。
- スキルギャップの特定: 現在のチームが得意とするスキルと、移行先の形態で特に重要となるスキルを比較し、不足している領域をリストアップします。例えば、クローズドからオープンへ移行する場合、リスク管理や広報・マーケティングのスキルが不足する可能性があります。逆にオープンからクローズドへ移行する場合、専門知識や個別の傾聴スキルの強化が必要になるかもしれません。
- 人材育成計画の策定: ギャップを埋めるために、既存メンバーに対する研修計画を具体的に策定します。外部講師を招いた専門研修、オンライン学習プラットフォームの活用、OJTによるスキルアップなど、様々な方法が考えられます。
- 採用・配置計画の見直し: 必要に応じて、不足するスキルを持つ人材の新規採用を検討します。また、既存メンバーの得意なスキルを活かせるような役割分担や配置転換も有効な手段です。
- チーム体制の再構築: 運営形態の変更は、チームのサイズや構成にも影響を与えます。移行後のコミュニティ規模や運営負荷を予測し、適切なチーム体制を構築します。ハイブリッド型の場合は、オープンとクローズド両方の要素に対応できる、あるいはそれぞれの専門チームを持つハイブリッドな体制が必要になることもあります。
- 組織文化との整合性: どのようなスキルを持つ人材を評価し、育成していくかという点は、組織全体の文化や人事評価制度とも関連します。コミュニティ運営チームに必要なスキルや貢献を、組織内で適切に評価・促進できる仕組みを検討することも、長期的な人材戦略においては重要です。
まとめ
オープンコミュニティとクローズドコミュニティは、それぞれ異なる性質を持ち、運営に求められるスキルセットも大きく異なります。オープン型では、多数の参加者への対応、情報拡散、リスク管理といった「広さ」と「多様性」への対応力が、クローズド型では、限られたメンバーとの深い関係性構築、専門性、機密情報の管理といった「深さ」と「信頼性」への対応力が特に重要になります。
コミュニティ運営の成功は、単に優れたプラットフォームを選ぶことや魅力的なコンテンツを用意することだけでなく、そのコミュニティの性質に合ったスキルを持つ人材が、適切な体制で運営にあたることにかかっています。
既存コミュニティの課題解決や、より適切な運営形態への移行を検討される際には、まず自社のコミュニティが目指す姿を再確認し、その実現のためにどのようなスキルが必要なのかを具体的に洗い出すことから始めてみてはいかがでしょうか。そして、現在のチームのスキルセットとのギャップを把握し、計画的な人材育成やチームビルディングを進めることが、コミュニティを次のステージへと導く鍵となるでしょう。